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O&N76.尾崎翠『第七官界彷徨』
2009-07-14 Tue 20:15
OLD and NEW 76  (09.07.14)
『第七官界彷徨』尾崎翠 著
 河出文庫  09.07
……昭和初期、幾多のモダニズム作家あるなかで一筋、特異且つ鮮烈な光芒を曳いて消えていったコメットの代表作が一冊になった。すでに筑摩書房より二巻本の全集が出ているが、この新刊は表題作と『「第七官界彷徨」の構図その他』を合せたもので、これをピンポイントで放つあたりに版元のねらいが感じられる。尾崎翠の傑作は小野町子を主人公とする中期の作品につきるという意見があり、作品集『アップルパイの午後』を出版して戦後の尾崎翠再評価の推進をなした薔薇十字社編集者・渚順生氏などはその一人だが、この文庫を読んでみて興味をもったひとはほかの作品にも赴いてたしかめてみるといいかもしれない。すでに作品集が筑摩から文庫で出ている。
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O&N75.アリストパーネス『女の平和』
2009-06-08 Mon 20:51
OLD and NEW 75  (09.06.08)
『女の平和』アリストパーネス 著/佐藤雅彦 訳
 論創社  09.05
……ギリシア喜劇の新訳。作者は紀元前に喜劇でならした男。ソクラテスとまったく同時代人でもある。喜劇『雲』は、ソクラテス死刑判決に口実を与えることになった問題作。
……この新刊の目玉はなんといってもオーブリー・ビアズリーの挿絵が多数収録されていることだろう。19世紀末イギリスの鬼才のものした絵は例によってただものではない。歌麿を顔色なからしめるほどの巨大なペニスがあちこちのページに堂々そそり立っているのは壮観。ワイルドを刑務所送りにした偽善的なヴィクトリア時代によくもまあこんなのを描いたものだ。
……好企画の一冊だが論創社の本ゆえ装訂はPP加工の安っぽいカバーで冴えない。これで税込2100円はちと高いか。
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O&N74.司馬遼太郎『花妖譚』
2009-04-28 Tue 00:20
OLD and NEW 74  (09.04.28)
『花妖譚』司馬遼太郎 著
 文春文庫  09.04
……この本の著者、実は司馬遼太郎ではない。司馬遼太郎となる前の福田定一が本名で書いたもの。それだけでも珍重すべき一冊だが、これがなんと幻想小説集なのだ。
……華道の未生流家元出版部の月刊機関誌『未生』に連載されたためかどれも花にちなんだ小品が全10篇。大きめの活字でも150ページ弱しかない薄い本だがそれはさながらきらびやな宝石をおさめた小筥の趣がある。
……舞台は日本にとどまらない。中国では幻視のさなか項羽が虞美人とともに命を絶ち蒲松齢が夜毎まぼろしの美女と交わる。あるいはユーラシア大陸を十日で横断する蒙古の伝令やギリシア神話のナルキッソスまでが桜草や水仙の香に満ちた幻想世界を通りすぎる。幻想といったが筆致は手堅くリアル。司馬遼太郎は代表作のひとつ『ペルシャの幻術師』などからもうかがえるように初期には幻想的ともいえる作品をいくつか書いていた。歴史幻想という方向へむかわなかったのはなぜだろう。
……チューリップが好きだった(という説がある)青年武将・別所長治の最期をえがいた「チューリップの城主」はじめどの作品にも死の影が射しているのは興味深い。かならず散る花の香は死の香りに通じるのかもしれない。
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O&N73.夢野久作『瓶詰の地獄』
2009-04-18 Sat 21:47
OLD and NEW 73  (09.04.18)
『瓶詰の地獄』夢野久作 著
 角川文庫  09.03
……『瓶詰の地獄』『死後の恋』『人の顔』『支那米の袋』『鉄槌』『一足お先に』『冗談に殺す』の七篇を収録した短篇集の復刊。表題作『瓶詰の地獄』は初出タイトルで、その後、夢久研究家・西原和海の厳密な校訂を経て、久作自身の改稿・改題による『瓶詰地獄』が現在は正式タイトルとして全集等に収められている。
……頭のネジが二三本とんでるようなトチ狂った雰囲気が充満している作品世界についてはいまさら贅言を要しないだろう。他の文庫でも読めるのにわざわざ本書をとりあげたのはなんといっても解説が中井英夫だからだ。反世界よりの流刑者が大先達に捧げたオマージュは短いが、夢野久作という巨大な暗黒星に接近する危険と魅力とを伝えるに充分である。復刊文庫に流行作家の新解説をつける悪習が横行している中、刊行時の夢野・中井コンビのままで出した版元の英断。もっとも何も考えず単にそのまま出版しただけかもしれないが。
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O&N72. アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『城の中のイギリス人』
2009-03-18 Wed 19:32
OLD and NEW 72  (09.03.18)
『城の中のイギリス人』アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ 著
/澁澤龍彥 訳

 白水社  09.03
……すでに同社のUブックスにはいっている本だがこちらは1982年版の新装復刊。装訂はすばらしい。黒と銀の本体にカバーは鮮血をおもわせる紅を黒枠で囲い文字は白抜き。造本もよく、フランスものらしい薄い表紙の軽快なつくりで紙は厚手、やや大きめな活字をゆったり組んで、しかもマージンはたっぷりとっていて(特に下の方を上と横より広く)、そのためページを開いたとき非常に美しく見える。税込3360円はUブックス版よりはるかに高価だが手元におく価値はある。
……孤高の文人アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグが1953年ピエール・モリオンの筆名で発表した典雅で残酷なエロティック小説。いま読めばおとなしいくらいだが、それでもその気品と幾何学的精神とは現代においても聳立している。翻訳は澁澤龍彥。雑誌『血と薔薇』に掲載されたが3号で澁澤が責任編集をはなれたため中絶。連載を愛読していた三島由紀夫がその後自決。ショックで澁澤はつづきを訳す気が失せたといういわくつきの作品。ちなみに生田耕作も本作を翻訳していてそちらは原題に忠実な『閉ざされた城の中で語るイギリス人』というタイトル。中公文庫にはいっているので読みくらべるのも一興。
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